若桜木虔メール通信添削講座 体験談 その27


『アガサ・クリスティー賞、予選通過14作品に残って』 香川由美 さん

「今度、アガサ・クリスティ賞というものが新設されます。映画の世界の裏話ということで書いてみませんか?」
 と、返却メールに一言、添えられていたのが、全ての始まりです。
「クリスティと言えば、ミステリですよね? 無理です!」と即答した記憶があります。

 ミステリというのは、複雑なトリックを考えつく、特有の才能の持ち主が書くものだと思っていました。いつも『古畑任三郎』のトリックも暴けず、感心してばかり。実際、ミステリなんて、ほとんど読みません。
 ただ、ハリウッドで映画化されたクリスティ作品の舞台裏を描ける、という点は魅力でした。
 クリスティ映画は何度も映画化されました。それぞれの作品と、出演した俳優、時代背景によって、様々な作品が残っています。『クリスタル殺人事件(鏡は横にひび割れて)』を取り上げたとしたら、私の小説にエリザベス・テイラーが登場する。映画狂いにとって、こんな魅力的な話はありません。
 でも2回、お断りしました。素人に書けるわけがないです、と。

 先生のお考えは違いました。複雑なトリックを新たに考えなくても、ミステリは書ける。本当か〜? と、だんだんその気になってきました。
 だったら、それを証明してみましょうか。先生に師事していなかったら、一生、縁のない世界です。
 考えてみれば、こんな経験、滅多にできません。先生の指導の元だったら、とんでもない方向に突き進んでも修正していただける、挑戦できる。チャンスと言えば、チャンスなんです。
 果たして、ド素人にミステリが書けるのか?
 取り上げる映画は1945年制作の『そして誰もいなくなった』。
 どうせ描くなら、ハリウッド黄金期の俳優たちの人生に関わってみたいと思ったからです。それに、モノクロ映画が個人的に大好きだということもありました。

 さっそくDVDを買い、それこそすり切れる程、見直しました。次がどういう場面で、誰と誰の台詞がどんなものかまで暗記する程。ああ、楽しかった……。
 と楽しいのは、そこまで。ミステリというからには殺人事件が起こります。それも一つや二つじゃないんです。毎朝、ウォーキングをしながら、「誰をどう殺すか」を考えました。全く、朝から、全然さわやかじゃない。
 思いついたトリックをメールで送って、先生の判断を仰ぎます。
 我ながらいいアイデアと思ったら、「手垢のついた使い古されたトリックです」と返信が来て、へこみました。
 何しろ、ミステリを読んでいないので、どんな殺し方が前例として出ているなんてわからないんです。そこを先生に助けていただき、なんとかプロットが完成しました。

 誰をどう殺すか、考えるのが楽しい人が、ミステリを書くんでしょうが、私には、とにかく苦悩の日々でした。
 また、実在の人物を登場させ、自在に操るのも初めての経験でした。それまで映画史に残る名優たちは、神聖な存在として手をつけて来なかったのですが、この作業で吹っ切れました。次の作品を書くのに、大きな大きな転機となりました。
 800枚の長編も初めてでしたし、全ての経験が、貴重なものであり、次に繋がるものとなっています。

 今年4月21日、メールで一次通過の14人に入ったと知らせを受けました。最高に幸せでした。その先に進めなかったことは、先生にも申し訳なく思っています。ただ、私の心は達成感でいっぱいです。
 ミステリのド素人でも、先生に師事すれば、それなりの結果が残せるんです。先生の言ったことは、やっぱり本当だったんです。
 今後ミステリを書くつもりは、今のところありません。でも今回の賞応募で私が得たものは大きいです。いい経験になったし、書く上で、思い切りもよくなりました。
 今後も自分の限界を勝手に設定せず、精進していきたいと思います。本当にありがとうございました。

もどる